年金生活者が 社会保障費を調べてみた (社会#3)

社会考察
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年金をいただくようになってから、ふと気になるのが

この先の社会保障は大丈夫なのだろうか」ということです。

ニュースでは人口減少や高齢化、財政の厳しさが取り上げられていますが、

実際のところ どれくらいのお金が使われているのか、年金生活者としては、どうしても気になります。

そこで、自分なりに 社会保障費の中身を調べてみました。

社会保障給付費の推移

まず 1950年からの 社会保障給付費の推移を グラフにまとめてみました。

e-Statデータ https://www.e-stat.go.jp/
第8表 社会保障給付費の部門別推移(1950~2023年度)を基に作成

私が社会人になったのが1980年

当時の社会保障給付費

 年金保険が、10.3兆円
 健康保険が、10.8兆円
 福祉関係が、  3.8兆円
 
    合計 24.9兆円 でした。

ちょうどこの頃から国の赤字が膨らみ始め、

「増税なき財政再建」を合言葉に行財政改革が進められた時代です。

それが、今年度(2025年度)の予算では、

 年金保険が、62.5兆円
 健康保険が、43.3兆円
 介護保険が、14.0兆円
 福祉関係が、20.8兆円

    合計 140.7兆円 になっています。

厚生労働省データを基に作成 https://www.mhlw.go.jp/index.html
https://www.mhlw.go.jp/content/12600000/001513635.pdf

45年間で給付額が 5.6倍となりました。

 年金保険が、+52.2兆円増
 健康保険が、+32.6兆円増
 福祉関係が、+24.6兆円増
 合計で +115.8兆円 増となりました。

随分と増えたものです。

介護保険は 2000年度から加わりました。

この間、一生懸命働き、税金や社会保険料を支払ってきましたが、

今では年金を頂き、前立腺癌では健康保険にお世話になり、母は介護でお世話になっています。

本当にありがたいことですが、

社会保障費の収入が、足りているのか気になります。

社会保障の収入は?

では、社会保障の「収入の方はどうか調べてみました。

基本は社会保険料収入ですが、

2025年度の社会保険料収入は 82.2兆円

支出は 140.7兆円 ですから、差し引き 58.5兆円赤字

この不足分を、公費(税金)で補っています

厚生労働省データを基に作成 https://www.mhlw.go.jp/index.html
https://www.mhlw.go.jp/content/12600000/001513635.pdf

公費の内訳は、

国の一般会計から 38.2兆円

地方の一般財源から 17.2兆円

さらに、年金積立金の運用収入が 3.1兆円あります。

これは「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」という組織が運用しており、

時々ニュースで話題になります。

では、この赤字を埋める公費(国の負担)は、いったいどこから出ているのでしょうか。

次に、それを調べてみました。

国の財政の仕組み

国の財政は「一般会計」と「特別会計」に分かれています。

これが、財政が わかりにくい原因のひとつです。

ニュースなどで取り上げられるのは、主に「一般会計」。

一方で、社会保障関係は「特別会計」で処理されているため、興味を持って調べないと全体像は見えてきません。

この「ブラックボックス感」が、社会保障費を理解しにくくしています。

社会保障費の赤字を補う国の負担分は、一般会計から捻出されています

一般会計の収入と支出を調べました。

一般会計の収入と支出

今年度の一般会計の予算額は 115.2兆円で、当然過去最高です。

収入の内訳

一般会計の収入の内訳を 見ると、

 消費税が、24.9兆円
 所得税が、22.7兆円
 法人税が、19.2兆円
 その他税収が、11.0兆円
 その他収入が、8.7兆円
 国債発行による借入が28.7兆円

合計で、115.2兆円となります。

財務省データを基に作成 https://www.mof.go.jp/index.htm
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/002.pdf

支出の内訳

この115.2兆円が、各省に振り分けられます。

多い順に見ると、
 厚労省 34.3兆円
 財務省 29.4兆円
 総務省 18.9兆円
 その他の省 32.1兆円 となっています。

財務省データを基に作成 https://www.mof.go.jp/index.htm
https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/budget/fy2025/0003.pdf

使い道別(経費別でまとめると

 社会保障費 38.3兆円
 地方交付金 18.9兆円
 国債費   28.2兆円
 その他   29.8兆円

こうやって見ると

厚労省の予算が、社会保障費(赤字の埋め合わせ)に使われ、

総務省の予算は、地方交付金(地方財政の赤字の埋め合わせ)に使われ、

財務省の予算は、国債費(国の借金の返済)に使われているのがわかります。

社会保障費の赤字の埋め合わせは、一般会計の主に厚労省の予算から捻出されているようです。

厚労省の予算額がトップなのも頷けます。

さらに、一般会計予算全体の7割が赤字の埋め合わせや 借金返済に充てられているのもわかり、驚いてしまいます。

残り3割(29.8兆円)で国の事業が行われていますが、この部分は昔から あまり変化がないようです。

本当の「社会保障費」とは?

ニュースなどの予算の解説では

「社会保障費が38.3兆円でトップ」と説明されることがあります。

しかし、これは「社会保障費そのもの」ではなく「社会保障費の赤字を補う分」の金額です。

実際の社会保障費は あくまで140.7兆円。

この点は誤解されやすいところです。

社会保障費の赤字の一部の埋め合わせが 38.3兆円」と正確に解説してほしいところです。

国の財政赤字の最大の要因は、やはり社会保障費です

社会保障費が、他の予算を圧迫していると 言えなくもありません。

この先どうなるのか…続きは「社会保障の今後」で考えてみます。

社会保障の今後

人口減少と高齢化が進む中、社会保障費の赤字は今後も増え続けると予想されています。

もはや放置できない段階に来ています。

社会保障の赤字を減らすには。

赤字を減らすには、基本はシンプルで、収入を増やして、支出を減らすしかありません。

収入を増やす方法

社会保険料を値上げする

年金の払い込み期間を延長する

社会保険加入条件を緩和して加入者を増やす

増税する

景気をよくする

支出を減らす方法

所得や資産が多い人の年金を下げる

年金支給額を一律で減らす

健康保険の自己負担率を上げる

高額療養費の限度額を引き上げる

ざっと 思いつく項目を 並べてみました。

どの項目も 話題に上がったり、引っ込んだりしてますが、

どの方法も、慎重に検討を重ねる必要があります

いずれも 国民の負担が増えるのは 避けられません。

しかし、「何かは」しなくてはならないと思います。

誰が負担すべきか。

改めて 社会保障費を眺めてみると、

年金介護費は高齢者向け

健康保険も 大半は高齢者が使っています。

そう考えると、社会保障費の大半は

高齢者を面倒を見るためのお金」と言ってもいいでしょう。

ここが大赤字なのですから、高齢者の私としては、肩身が狭いです。

所得税」や「社会保険料の多くは、主に現役世代が負担しています。

企業の法人税」や「社会保険の事業主負担分も、そこで働いている現役世代が稼ぎ出したものです。

これらを引き上げ、現役世代の負担を増やすの難しい。

では誰が「高齢者の面倒」みたらいいのか?

そこで導入されたのがみんなで面倒をみる」仕組み=消費税です。

消費税と社会保障

現在、消費税率は10%(国7%・地方3%)

消費税収は 国が24.9兆円、地方が 10.7兆円、合計35.6兆円です。

一方、社会保障の赤字を補うための公費は、

国38.2兆円、地方17.2兆円で合計55.4兆円

消費税だけでは、まだ約20兆円が足りません。

これが、消費税増税論が 常にくすぶり続ける理由です

増税か、成長か

増税を主張する急先鋒は財務省です。

国の財政を管理する立場から見れば「赤字を放っておけない」と考えるのは当然で、非難すべきことではありません。

その一方で、景気対策を実施し、経済が拡大すれば 税収や社会保険料収入が増え、増税しなくても赤字は縮小します。

これを目指したのが「アベノミクス」でした。

これができれば 一番いいのですが。そう簡単にはいきません。

景気対策には、お金と時間がかかります。

結局、景気対策を実行しつつ、消費税も増税しました。

これは、「アクセルを踏み」つつ 「ブレーキも踏む」ことになり、

ハンドルさばきは難しくなります

その後、「新型コロナ」や「 ウクライナ紛争」など、思わぬ出来事が続き、思うようには進みませんでした。

ちょっと意外な発見

今回予算を調べて驚いたのは、

新たな借金(28.7兆円)返済額(28.2兆円)が、ほぼ同額になっていたことです。

つまり、財政健全化の第一歩「プライマリーバランス」が均衡 していたのです。

正直「いつのまに」と思って調べてみると。

税収が増えていました。

過去5年間、税収は毎年過去最高を更新しています。

景気は良くなっているのでしょうか。

現役時代は、景気動向が肌感覚で把握できたのですが、

引退した今は、まったく わからなくなってしまいました。

恐らく、新型コロナ対策として、大規模な財政出動が行われた結果だと思いますが、

ほんの少し 明かりが見えた気分です。

引き続き、税収や 社会保険料収入が増えて行けばいいのですが・・・・。

期待したいです。

最後に

人口減少・高齢化・トランプ関税。

日本をとりまく経済環境は、難しいハンドルさばきが求められています。

社会保障費を調べていくうちに、

社会保障制度は 本当に維持できるのか心配になりました。

先の参議院選挙では、

減税」や「給付金」など「耳ざわりのよい話も飛び交っていましたが、

現実に可能なのかは疑問です。

今こそ耳の痛い話」を正面から語る必要があると思います。

しかし、そんな話をする政治家は、次の選挙で姿を消してしまうでしょう。

勇気をもって「厳しい話」ができ、それを乗り越える力を国民に示せるリーダーが必要なのかもしれません。

そんなリーダーなら、国民も付いていけるのではないでしょうか。

私自身は、いま年金をいただく身ですが、これを減らされるのは正直つらい。

かといって、再就職して税金や社会保険料を納めるのも難しい。

だからといって、これ以上 現役世代に負担を強いるのも 忍びないのです。

結局のところ、自分にできることは限られています。

病気を経験してみると、社会保障のことは決して他人事ではなくなりました。

これからも 健康管理に気を配り、少しでも 医療費や 介護費を減らせるよう努めていく――

それが今の 私なりの答えかもしれません。

正直、前立腺癌などになっている場合ではないのですが……。

皆さんは、

「社会保障」 どう思われますか。


今回の記事で使用しているデータは、厚労省や財務省のホームページで公表されているデータを基にしています。

グラフや表も、そのデータを基に作成したものです。

内容に関しては、私の私見で書いていますので、鵜呑みにしないでください。

データをもとに、ご自身で「社会保障に関して考えてみる」時の参考にしてください。

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